大判例

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最高裁判所第一小法廷 昭和44年(あ)205号 判決 1969年7月03日

本籍

千代田区神田一ツ橋二丁目三番地の二

住所

右同所

会社役員

久保政市

明治四〇年三月五日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、昭和四三年一二月一〇日東京高等裁判所の言い渡した判決に対し、被告人から上告の申立があつたので、当裁判所は、次のとおりと判決する。

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人江口弘一の上告趣意第一点は、憲法三九条後段違反をいうが、同一の行為について、所得税、延滞利子税、重加算税のほか刑罰を科しても、所論憲法の条項に違反しないことは、当裁判所大法廷の判例(昭和二九年(オ)第二三六号同三三年四月三〇日大法廷判決、民集一二巻六号九三八頁。なお、昭和三五年(あ)第一三五二号同三六年七月六日第一小法廷判決、刑集一五巻七号一〇五四頁参照。)の趣旨に徴し明らかであるから、所論は理由がない。

同第二点は、量刑不当の主張であって、適法な上告理由にあたらない。

よつて、刑訴法四〇八条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大隅建一郎 裁判官 入江俊郎 裁判官 長部謹吾 裁判官 松田二郎 裁判官 岩田誠)

昭和四四年(あ)第二〇五号

被告人 久保政市

弁護人江口弘一の上告趣意(昭和四四年二月二七日付)

第一点 原判決は憲法の違反がありその違反が判決に影響を及ぼすことが明らかであり原判決は破棄されなければならない。

(理由)

原判決は被告人に刑罰を科した点に於て憲法第三九条後段に違反し破棄を免れない。

何となれば被告人はすでに税務当局の御命令に服し税務当局が一方的に計算した所得金額に応ずる税額及び重加算税延滞利子税等を直ちに支払つている。これは名目の如何を問わず実質上被告人に対する刑罰に外ならない。手痛い刑罰たる何千万円の重税を科しながら同じ国家が今度は「裁判所」という別の肩書で「罰金」や「懲役」という別の名目の刑罰を科するということはいかに法の形式論理を操つても二重処罰そのものであることを否定できない。

第二点 原判決の量定が甚しく不当であつて、これを破棄しなければ著しく正義に反することを認める事由がある。

(理由)

第一点において既に主張した如く被告人は何千万円の莫大な週怠税、重加算税を科せられ実質上死刑に処せられたと全く同一である。営業の存在そのものを否定する様な過大な税額を科せられながら被告人としては若干の帳簿の不正等があつた弱味から税務当局に極端にマークされる不利を恐れ泣き泣き命令通りの納付をしたのである。

真実は同業者からの懇請をことわりきれず被告人としては同業者の倒産を救うため且つ銀行融資との関係上簿外処理をその同業者より懇請された結果であり決して悪意があつたわけではないし又原判決の認めた様な過大な逋脱があつたのではない。

しかるに原判決は被告人に更に罰金五百万円及び懲役刑を科したがこれは余りにも重い刑罰である

以上憲法違反並びに量刑不当の二点につき貴裁判所におかれては原審記録並に証拠御精査の上慎重御審議相成り原判決破棄の御裁判賜りたく御明鑑に訴へる次第であります。 以上

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